小説「ハゲタカ」に学ぶ9つの交渉術

不良債権処理を扱う、映画化もされた小説。不良債権の回収というハードな交渉の場において展開される交渉術が熱かったです。

ハゲタカ(上) (講談社文庫)

1、相手を絶望に陥れてから、最適な選択肢を提示する。

債権の取立交渉において、、

「我々の債権回収の方法は2つしかありません。」
「1つは、毎月定められた返済額を滞りなくお支払いいただく」
「あなたも分からない人だなぁ。ですから」
だが、アランは社長の目の前に大きな手を広げてそれを制して、自分の言葉を継いだ。
「もう1つは、債務を即刻完済いただくかです。」
「何を言ってるんだ、あんたは!あんたじゃ話にならん。ねえ社長さん、お分かりでしょ。急にそんなことを言われても、我々としては無い袖は振れないんだ」
(中略)
これは、恐れ入りました。我々も、ニッボン相手に喧嘩を売ってもいたしかたありません.では、1つご提案を致します。御杜にとってもけっして損ではない条件をご提示するということで如何でしょうか?
その一言で喧嘩腰になった金田社長が怒りを静め、渋面のまま腕組みををした。
「話だけは聞かせてもらいましょう」
(中略)
山中専務と金田社長がほぼ同時に驚きの声を上げた。
「不良債権処理には、DPO、つまりディスカウント・ペイ・オフという考え方があります。すなわち、残高を一括払いして戴く代わりに、債権をディスカウントさせて戴く考えです」
「今、おたくは、232億円もある債権を我々が20億円を出せば、チャラにすると言ったのか?」
アランは、目映いばかりの笑顔で頷いた。
「そうです。いかがですか? 悪い買い物ではないと思いますよ」
金田と山中は信じられないという顔で互いを見合わせた。

2、新しい価値観を登場させ、それを常識であると言い切る。
3、正義の味方になる

入札において、判断基準はお金だけではない。
ブランドという新しい価値観を持ち出すことで考え方の転換を図っています
オープン入札にして、入札額を少しでも上げようとする銀行の方針に対する切り返し。

「・・・のは、処理能力と資金力を持っている限られたプロフェッショナルだけです。その結果、競争入札を行うとしても、参加者は銀行側か指名した業者だけに絞られるのが常識です。それを、オープンでされるということは、貴行の評判を著しく貶める可能性があります。三葉はオープンで入札しないと価格がつかないような危ない銀行なのか。そう言われるのは時間の問題です。
1ヵ月7500万円もの大金を、貴行からアドバイザリーフィーとして戴いている弊社としましては、ここは断固としてオープン入札をやめられるように進言致します」
会議室は重苦しい沈黙に包まれた。リンの言うことはもっともだった。自分より彼女の方が愛行精神があると思えるぐらい、彼女の言い分は「栄光の三葉」を守るための正論」と言えた。
(中略)
彼女は、「ホライズン・キャピタルにとって良いこと」を「三葉銀行にとって良いこと」にしっかり置き換えて、百戦錬磨の連中を納得させてしまった

4、論点のすり替え

「だが、合点がいかねえ。あんたら、融通とか借とかを無視してないか。俺連が大変なときに、少しぐらい助けてやろうって気になるのが借けってもんだろ。大体知ってるのか。俺連が六〇年も守り続けてきた『金色屋』は日本の財産なんだ。それをあんたら、単なる金でしか計算しねえ。俺はそういうやり方が赦せねえんだ」
鷲津はそう言われて、また微笑んだ。
「金田さん。赦せないのは我々じゃなく、あなたご自身じゃないんですか」
「何だと!」
「先祖が連綿と築いてきた伝統を、あなたは目先の欲に目がくらみ、失ってしまった
んじゃないんでしょうか? バブルだ、ハゲタカだと騒がれますが、そもそも本業だ
けを。意専心で守り続けてこられたところが、こんな莫大な借金を抱えるでしょう
か? 腹心の、しかも身内の方に裏切られるでしょうか

5、「あなたならわかっているはずです。」相手の見識を評価する

「喧嘩ではありません。商談ですよ。昔から言うじゃありませんか。捨てる神あれば救う神ありって。現状での三葉では、破綻懸念先以下の債権を正常債権に戻すことが不可能なのは、私以上に飯島常務の方がよくご存じのはずです。飯島さんぐらい切れ者であれば、三葉再生のために、そんな債権は即刻切り捨て、銀行を根底から立て直すべきだということは、ご承知のはずだ。ところが、日本の銀行は、道理より無理と情実とメンツだけがまかり通るところ。ことはそう簡単にいかない」

6、運命共同体になる。
7、相手を誰よりも評価する

「しかし、それはお互い様です。そんな事をしていると知られた時は、私達もこの世界から追放されます。一蓮托生、運命共同体ということです
「運命共同体なあ。でも、何か引っかかりますなあ」
「まあ、こういう話はあんまり深読みしなはんな。それこそ無粋で野暮な話でっせ。それより、おたくさんも滅私奉公で三葉に尽くしてきた割には、その見返りが同期の迫田の下とは、あんまりや。このへんでちょっと楽さしてもろたらどうですん?」
鷲津は、光悦という人物の説得力に感心していた。鷲巣からは細かい指示はしていない。ただ、飯島をぜひ自分達の陣営に取り込みたいとだけ伝えたのだ。それなりに金は使った。だが、どうやらこの調子なら、飯島は篭絡できるかも知れない

8、味方には闘いの主役だと思わせる

「そうしてくれ。いいか、アラン。これだけは肝に銘じておけ。ビジネスで失敗する最大の原因は、人だ。味方には、その人がこの闘いの主役だと思わせ、敵には、こんな相手と闘って自分は何て不幸なんだと思わせることだ。そして、牙や爪は絶対に見せない。そこまで細心の注意を払っても、時として大の気まぐれや変心、あるいはハプニングのせいで、不測の事態が起きるんだ。だから結果を焦るな。そして馴れ合うな、いいな」

9、思いを汲み取る

「大丈夫だ、堀さんがなぜ、我々の会社のトップになったと思う?」
「それは、金でしょ」
「バカ!」
リンは、そういって紙ナプキンをアランに投げつけた。
(中略)
堀さんは、今の日本の有り様を嘆いているんだ。外資だ、ハゲタカだと責任転嫁ばかりせず、迅速かつて企画に日本を再生しなければ、この国は沈没する。彼はそう思っている。そして、その責任の一端を感じているんだ。だからこそ、本物のバルチャーファンドであるウチの会長になってくれたんだ。日本を再生するためなら、あの人は何でもしてくれるさ。・・・

ちなみに、不良債権ビジネスとはどういうビジネスなのか?

不良債権ビジネスの世界では「ベターオフ」が理想だと言われる。すなわち、バルクセールでバランスオフできる銀行の負の遺産は前よりは良くなり、債務者側も借りていた額の数分の1で借金が清算できる。もちろん、その間にいる不良債権処理業者も利がやを得られる。ブレイヤー全員が、それぞれに「よりべ夕ーになれる」ビジネス。そう考えれば、不良債権ビジネスもけっして悪ではないという発想ができる。
しかし、三〇億円の融資の原資は預金者の預金であり、銀行の手落ちで二九億円も損を出して、「みんなハッピーで、ベターオフになるから良かった」という理屈は通用しない。彼らが真っ当な融資をし、それを不良債権にせずに返済してもらえたなら、預金者の利回りはもっと良くなったかも知れない。
しかし日本の場合、そうした銀行の杜撰な融資が、「バブル崩壊」という社会現象の影に隠されてしまった。さらに政官財が一体となって[この苦難を国民が一致団結して耐えよう」というキャンペーンを展開。結果的には、「不景気だから銀行の金利が下がるのは仕方がない」という諦めを植え付けた。また様々な巨額の債権放棄も、日本経済の屋台骨を守るためにはやむなし」というムードをつくり上げ、預金者は「自分の預金が減るわけじやないのであれば致し方ない」と納得してしまう

不良債権処理について、中身を初めて知ることが出来ました。
さらに、この本では、「生きることの意味」を感じさせるシーンも有ります。
ビジネスとリアルな人間観があふれていて面白かったです。

芝野は、心からそう思った。
その一方で、自分達大人は、若い世代に胸を張って自分の生き様を誇れるだろうかと考えさせられてしまった。
俺達が過ごしてきた日々は、ずっと言い訳の連続だった。
自分はそうじゃないと思っているんだが、それがままならないのが社会。会社員に求められるのは、定められたルールの中での適合力。
長い物にはまかれよ、一時の義侠心や変な正義感をふりかざせば、それは一生のツケとなって戻ってくる。
俺達は、闘うことも挑戦することもせずに、ただ自分達の都合の良い結果だけに満足して、先に進むことを避けてしまっている。
これが人生か……。これが生きているという意味なのか……

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